キャリア・トリガーに寄せる思い〜明治大学教授・堀田秀吾
大学で教鞭をとりながら、日々学生たちと接していると、就職活動がいかに大きな壁となっているかを実感します。情報はあふれている一方で、学生たちは「本当に知りたいこと」にたどり着けず、不安や迷いを抱えたまま進路を選ばざるを得ない状況にあります。求人票や説明会で語られるのは「大人たちが用意した」整えられた言葉が中心で、そこに働く人の「等身大の声」はなかなか届きません。

そして、学生たちもほとんど親類関係以外の社会で働く人たちと仕事のことについて話す機会を得ないまま就活という、いわば「海図なき航海」に漕ぎ出していくのです。私はこの状況を少しでも改善しようと、個人的に、授業に社会で活躍する人々を招いて特別講義をしてもらったり、ゼミのOBOGによる就職相談会を開いたりしてきました。さらに、私自身の書籍の企画やマーケティングを出版社と組んで学生に担ってもらったり、企業とのコラボ製品を開発したり、動画制作の現場に関わってもらったり、あるいは気軽な食事会を催したりと、学生が社会人と接点を持てる場をことあるごとに設けてきました。そういった活動が噂を呼び、関心がある学生がたくさん集まるようになり、気がつくと「法学部一番人気のゼミ」「就活ゼミ」とまで呼ばれるようになりました。
こうした試みを重ねるうちに、私は気づきました。いくら外部の人を招いたり橋をかけたりしても、「学生自身の言葉で語られる情報」がなければ、本当の意味でのリアルさや説得力には届かないのではないか、と。そんな思いを抱えていた折、とあるラジオ番組に出演した時に、番組が終わってからのパーソナリティの方との熱い熱い雑談の中でたどり着いたのが、「学生自身が、学生の立場で情報を発信する」というアプローチでした。そこから当時のゼミ生たちと「キャリア・トリガー構想」が始まりました。
学生が発信する「リアルな声」
キャリア・トリガーの大きな特徴は、学生が主体となって取材し、記事や映像を編集し、発信していく点です。そして、さまざまな企業との協働を通して企画・開発・営業・マーケティングなどの実体験や交流を通して、同世代だからこそ聞き出せる本音や、共感できる悩みや希望をリアルに伝えることができます。それは、従来の就活サイトや説明会では得られない情報であり、学生にとって何より心強い支えになるはずです。
また、情報は記事だけにとどまりません。ラジオ番組や動画、SNSといった多様なメディアで届けることにより、学生が親しみやすく受け取れる工夫を凝らしています。エンターテインメント性を含ませることで、就活の堅苦しさを和らげることも狙いの一つです。

学生と企業をつなぐ架け橋に
もちろん、このプロジェクトは学生だけのためではありません。企業にとっても、学生が発信する率直な言葉や視点は、自社を知ってもらう新しい機会になります。若い世代の目線でどう映っているのかを知ることは、企業にとっても貴重な学びであり、採用活動やブランディングに役立ちます。リクルーティングに苦労している企業にとっても、より確実にターゲット層である就活の当事者である学生たちにダイレクトに声が届られます。
私は「キャリア・トリガー」が、学生と企業の双方にとって利益をもたらす「橋」になると信じています。学生は安心して進路を選び、企業は新しい人材と出会う。そのつながりの中で、社会全体が少しずつ前向きに変わっていくことを願っています。
特に、就活の初めはどうしても大手企業に目が向きがちですが、実際には世の中に数えきれないほど多様な企業と仕事があります。そのなかでこそ、自分の能力を存分に発揮できる場所がきっと見つかります。そして、働くことの楽しさや、人生の面白さ、素晴らしさを発見できる機会も広がっていくはずです。私は学生たちに、その可能性に気づき、勇気を持って歩み出してほしいと願っています。
教員としての挑戦と学び
教員という立場からこういった活動に声をかけ、学生たちとゼロからプロジェクトを立ち上げていくのは、私にとっても大きな挑戦でした。計画を練り、企業を訪問し、メディアを運営する。どれも簡単なことではありません。しかし、学生たちの柔軟な発想と情熱に触れるたびに、「この活動には確かな未来がある」と確信を深めています。
そして、活動に参加する学生たちの輝きに本当に感動が絶えない日々です。
むしろ、教える立場であるはずの私自身が、学生から新しい視点や可能性を教えられているのです。
「きっかけ」と「扉」になりたい
「キャリア・トリガー」という名前には、「学生が未来へ踏み出すきっかけ(トリガー)」そして「企業と学生が出会う扉」になりたいという願いを込めて、学生たちが自ら考案しました。就活に悩む学生が安心して一歩を踏み出せるように。人材を求める企業が新しい可能性を見いだせるように。その両方を実現するために、私たちはこの活動に全力を注いでいます。
ゆくゆくはこの活動を他大学にもインカレサークルのように広げていきたいと考えております。
キャリア・トリガーが、学生の未来を照らし、企業の成長を支え、社会を前向きに動かす力になることを、心から願っています。