「ご縁をつなぐ」で新たな価値を創造~視覚障害を乗り越えた挑戦者の軌跡~

今回は、困難を乗り越えて新たな道を切り拓いた、とても印象深い方にお話を伺いました。「失敗を恐れず、まず動く勇気を持ってほしいです」。そう力強く語るのは、繊維専門商社でのキャリアから独立、そして視覚障害の発症という人生の転機を経て、現在は「ご縁つなぎスト」として活動する松枝史憲さんです。波乱万丈な経歴と困難を乗り越えてきた体験から生まれた深い洞察を、学生向けキャリア支援メディア「キャリトリ」の取材でお聞きしました。

商社マンから独立、そして予期せぬ転機

松枝さんのキャリアは2000年、繊維専門商社への入社から始まりました。最初に配属されたのは海外業務部。貿易に関わる書類を扱う部署で、当時は「利益を生まない部署」として軽く見られがちでした。

「新入社員15人の中で、海外業務部に配属されるのは1人だけでした。『営業できないから、あの部署に行くんだ』なんて言われることもありました」

しかし松枝さんは腐ることなく、2年間物流の仕組みを徹底的に学びました。その後10年間はアパレルOEM事業を担当し、若い女性向けファッションの企画提案から発注、中国での製造、輸入まで一貫して手がけました。誰もが知る大手のアパレル会社の女性用インナーなども手がけ、順調にキャリアを積んでいきます。

取材していて感じたのは、松枝さんの当時の状況に対する前向きな捉え方でした。「ばかにされていた部署」と言われた経験を、後に自分の強みとして活かしていく姿勢は、まさに今の学生に伝えたい「どんな経験も無駄ではない」という教訓の実例だと思います。

2012年、松枝さんは商社を退職し、友人らと3人でOEM会社を設立。独立への一歩を踏み出しました。ところが約1年半後、人生を大きく変える出来事が起きます。

視覚障害の発症―絶望から希望への転換点―

37歳の時、松枝さんは網膜色素変性症を発症しました。5,000人に1人がかかる遺伝性の難病で、徐々に視野が狭くなり、最終的には全盲に至る進行性の疾患です。

「映画館で例えると、角膜が映写機で網膜がスクリーンです。そのスクリーンがどんどん黒くなっていく病気なんですよ。現在、片目の視野は2%、もう片方は5%程度しか残っていません」

アパレル業界は色の違いや編地の確認、製品の品質チェックなど、「目」に頼る作業が多い分野です。視覚障害の進行により、松枝さんは長年携わってきた仕事を続けることが困難になりました。

「できないことばかり数えるようになって、『死ぬしかないんじゃないか』『家族にとってお荷物なんじゃないか』と思う時期もありました」

この部分の話を聞いていて、私たちは胸が締め付けられる思いでした。しかし、ここからの松枝さんの発想の転換が本当に素晴らしいのです。

しかし、松枝さんには武器がありました。新人時代に「嫌われていた部署」で学んだ物流の知識です。

「まさか営業からも嫌われていた物流の仕事が、自分の人生を助けてくれるとは思いませんでした。これこそ『人間万事塞翁が馬』ですね」

新たな挑戦―物流から「ご縁つなぎ」へ―

松枝さんは2015年頃から小規模な物流会社で営業の業務委託として働き始めました。最初は思うような結果が出ませんでしたが、持前のコミュニケーション能力と豊富な業界知識を活かし、徐々に売上を伸ばしていきます。2020年頃には関わり始めた当初より10倍ほどの売り上げに成長し、上場企業からM&Aの話も受けるまでになりました。

物流の仕事を通じて、松枝さんは様々な業界の企業と接点を持つようになりました。アパレル以外の建築関係の輸入業者など、多様な事業者の商流や課題を知ることで、新たなビジネスの可能性を見出したのです。

現在、松枝さんは「ご縁つなぎスト」として活動しています。異なる業界や企業の人々をつなぎ、新たなビジネス機会を創出する仕事です。

「人と人をつなげた時、必ず両方から『ありがとう』と言われるんです。これは今まで経験したことがない喜びでした。サラリーマン時代にはなかった感覚ですね」

「ご縁つなぎスト」というネーミングも印象的でしたが、何より松枝さんが語る「両方からありがとうと言われる」という言葉の重みを強く感じました。これは単純な仲介業ではなく、本当に価値のある「つながり」を作る仕事なのだと理解できます。

障害との向き合い方―受け入れから前進へ―

視覚障害との向き合い方について、松枝さんは率直に語ります。転機となったのは、同じ病気を患いながらキックボクシングを続ける成澤さんとの出会いでした。

「成澤さんは『世界一明るい障害者』というニックネームを持つ方で、障害を全然障害じゃないように思わせてくれました。その方のマインドに触れて、コロッと変わったんです」

この出会いをきっかけに、松枝さんは「できないこと」ではなく「できること」に目を向けるようになりました。

「できることを増やしていけば、いつかできないことを追い越すこともできるんじゃないかと思うようになりました」

周囲からの気配りについては、素直に受け取る姿勢を示します。

「『ありがとうございます』と言って受け止めます。道に迷った時も『連れて行ってもらえませんか』と素直にお願いできるんです。それも自分のコミュニケーション能力だと思います」

取材中、松枝さんの表情が本当に明るく、視覚障害を抱えているとは思えないほどポジティブなエネルギーに満ちていました。「世界一明るい障害者」の成澤さんとの出会いが、松枝さんの人生観を大きく変えたことがよく伝わってきます。困難な状況でも、人との出会いが新たな可能性を開くのだと実感させられました。

AI時代を生きる働き方―人間だからこそできること―

デジタル化やAIの発展について、松枝さんは独自の視点を示します。

「AIがどんなに発達しても、サービスの対価をもらうのは人からです。だからコミュニケーションが絶対に重要なんです。マッチングビジネスも、ネットではなく『松枝が紹介してくれる人だから会おう』という信頼関係が鍵になります」

特に重視するのは、相手の立場に立って考える想像力です。

「仕事を提供する側、される側、両方の立場に立ってものを考えられる人が伸びると思います。相手が何を望んでいるか、何を考えているかを想像しながら仕事をすることが大事です」

AI時代における人間の価値について、松枝さんの見解は非常に説得力がありました。特に「信頼関係」を重視する考え方は、デジタルネイティブ世代の学生にとって、改めて人と人とのつながりの大切さを考える良いきっかけになると感じます。

人生の教訓―すべての経験に意味がある―

松枝さんの人生観を象徴する言葉があります。

「人間万事塞翁が馬です。何が起こるかわからない。みんな役に立つかわからない無駄なことはないんです。やりたいと思うことは何でもやって、失敗したらいい。まず動く勇気を学生さんには持ってほしいです」

新人時代に「嫌われていた部署」での経験が、視覚障害を患った後の人生を支える武器になりました。そして、その障害さえも新たな出会いと可能性をもたらしてくれました。

「目が見えなくなっても、こうやって明治大学の学生さんとお話ができる人生を送れています。とてもありがたいことです。何が人生であるかわからないんです」

学生へのメッセージ

最後に、就職活動を控える学生に向けて力強いメッセージを頂きました。

「とにかく失敗をたくさんしてきたからだと思います。失敗がスタートという感覚を少し持ってもらえたらいいかなと思います。失敗することを恐れて何もやらない、できることしかやらないのでは、自分の殻は破れません」

「まず失敗してもいいや、失敗してから学べばいいやという気持ちで仕事に取り組んでもらえれば、心もスキルも上がっていくと思います」

松枝さんの「失敗がスタート」という考え方は、失敗を恐れがちな現代の学生にとって非常に価値のある視点だと思います。取材していて、松枝さん自身の人生そのものが、この言葉の真実性を証明しているように感じました。

取材を終えて

松枝さんの言葉には、困難を乗り越えた人だからこそ語れる重みと説得力があります。「失敗を恐れず動く勇気」「相手の立場に立つ想像力」「人とのつながりを大切にする姿勢」これらは障害の有無に関わらず、すべての人にとって大切な働き方の指針となるでしょう。

変化の激しい時代だからこそ、松枝さんのように柔軟性を持ち、困難を成長の機会として捉える姿勢が、これからの社会で活躍する鍵となるのかもしれません。

ここで、今回取材を行った2人の学生記者から聞いた感想をご紹介します。

1人目の感想です。

「人生は何が起こるか分からない。何が将来役に立つかも分からない。だからこそ、目の前のことに全力で取り組む姿勢が大切なのだと、今回の取材を通して強く感じました。

失敗を恐れず挑戦すること。そして、失敗から学び次に活かす力。そうした経験の積み重ねが、いつか自分のやりたいことや楽しいと感じられることを明確にし、自分自身を助けてくれる。松枝さんのお話には、そんな前向きなメッセージが込められていました。

やりたいことは求人票とにらめっこして見つかるものではなく、何かに努力して得た結果の中に現れるものなのだなと松枝さんのお話から感じました。就職活動中の今こそ、この考え方は大切にしたいと感じました。

『やりたいことが分からない』と悩む学生は少なくありません。私自身もその一人です。しかし、だからこそまず動いてみること、挑戦することの大切さに気づくことができました。この視点は、同じように悩む多くの学生にとってもきっと助けになるはずです。」

続いて2人目の感想です。

「持ち前のコミュニケーション能力を活かし、障害を「障害」と捉えずに、常に「できること」を探し続ける松枝さんの心の在り方にとても感銘を受けました。困難に直面しても前を向き、可能性に目を向けるその姿勢は本当に素晴らしいです。だからこそ、多くの人とご縁をつなぎ、信頼され感謝される存在になっているのだと感じました。

松枝さんはまさに「ご縁を繋ぐキューピッド」のような存在であり、その影には日々の努力や葛藤、苦悩もあることを想像すると、その人間力の大きさを実感します。

人生の大きな壁に直面した時、怖がらずに勇気を持って挑戦すること、そして捉え方を変えて成長の機会とすることが大切だと改めて教えられました。こうした考え方は誰もが持ちたい心構えであり、松枝さんの経験が多くの人の励みになると信じています。

また、人とのつながりや信頼関係を築くことの重要さも強く感じました。こうした絆が新しい価値や喜びを生み出し、社会を豊かにしていくのだと思います。松枝さんの前向きな姿勢と誠実な心は、多くの人にとって大切な生き方のヒントとなるでしょう。

取材を通じて私たちも日々の挑戦に対して勇気を持ち、柔軟な発想を持つことの大切さを改めて感じることができました。」


松枝さん、本日は貴重なお時間ありがとうございました!

皆さんの就活や将来について考えるきっかけとなるような、素敵な企業や人物を引き続きご紹介していきます。次回もお楽しみに!

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